山小屋での生活を


by yamagoya333

やさしい言葉   What am I for someone ?

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 15日、詩人の 吉野浩さんが、肺炎のため亡くなりました。
 87歳でした。

 私は、吉野さんの言葉遣いを秘かに師事しておりました。
 けっして人を傷つけることのない「やさしい言葉」が作品に溢れておりました。

 吉野さんの残してくれた言葉は、沢山あります。
 でも、これで限りがきたのだと思うと、寂しさが心の中にゆっくりと沈んでいくのを感じています。

 心から感謝を込めて、ご冥福をお祈りいたします。




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      『詩の楽しみ』   吉野 弘


 夏の日盛り、大輪の芙蓉ふようを眺めていたとき、ふと奇妙なことに気づき、疑問に思ったことがあります。


 芙蓉の花は五弁の花びらが合わさって鉢型をなしています。よく見かける色は紅と白ですが、私の庭にある白い芙蓉は花の鉢の底に当たる部分が鮮紅色です。そして、めしべというのがひどく長くて、鉢型の底から伸びためしべは花びらの端よりもっと長く外へ突き出ています。ところが、おしべは、これとは対照的に短くて、めしべの生え際に、頼りなげにチョボチョボとあるのです。


 いうまでもないことですが、花は生殖器官ですから、めしべがおしべの花粉を受精しやすいようにできているほうが合理的なはずです。受精が楽に行われるためには、めしべとおしべの背丈がそろっているほうがいいわけです。ところが、芙蓉の花では、前述のように背丈が違い、まったく不合理です。


 そう思いながら、めしべとおしべを仲立ちするのが蜂や蝶だということに思い当たり、虫の役割に気づきました。そういえば、虫媒花、風媒花、ということばを学校で習ったな、と思いました。


 そのとき私は、花が受精する際に、虫や風などの力を借りるというしくみに、新鮮な驚きをおぼえたのです。つまり、楽な受精法を避けて、花以外のものに頼るめんどうな受精法を選んでいるわけで、言ってみれば、受精という大切な行為の過程に、花の思い通りにならない他者を介入させるわけです。




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 私の想像ですが、生命というものは、自己に同意し、自己の思い通りにふるまっている末には、ついに衰滅してしまうような性質のものなのではないでしょうか。その安易な自己完結を破る力として、ことさら、他者を介入させるのが、生命の世界の維持原理なのではないかと思われます。


 もしも、このような生命観が見当違いでないとすれば、生命体はすべてその内部に、それ自身だけでは生をまっとうできないという、いわば欠如を抱いており、それを他者によって埋めるよう運命づけられている、ということができそうです。


 他者なしでは完結することのできない生命、そして、お互いがお互いにとって必要な他者である関係、これは、もしかしたら生命の世界の基本構造ではないか・・・これが私の帰結だったのです。


 言うまでもなくこの構造は人間を含んでいます。つまり私も、ある時、ある人にとっての虫や風であり、ある人の幸・不幸の結実を知らずに助けたり、また私の見知らぬだれかが、私の結実を助けてくれる虫や風なのです。


 この「他者同士」の関係は、お互いがお互いのための虫や風であることを意識しない関係です。ここがいいのです。他者に対して、いちいち礼を言わなくてもいい。恩に着せたり、また、恩に着せられたりということがありません。


 世界をこのように作った配慮は、実に巧妙なものだと私はつくづく思います。一つの生命が、自分だけで完結できるなどどと万が一にもうぬぼれないよう、すべてのものに欠如を与え、欠如の充足を他者にゆだねた自然の摂理の妙を思わないわけにはいきません。私はきょう、どこかのだれかが実るための蜂だったかなと想像することは、楽しいことだと思うのですが、どうでしょうか。


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  What am I for someone ? written by Yamagoya-tishu

 だれかのために、何かをするとなれば、肩に力が入るし、お互いにフィフティーではない部分が出てきます。
 でも、「知らないだれかの役に立ったかもしれない」と考えるだけでも、楽しい気分になれますね。

 さしずめ、気まぐれの私は「風」です。人の役に立つどころか、微風の時は力にはなれず、嵐の時は、邪魔ばかりしているように思います。
 それでも、だれかの・・・・・と考えてしまう自分は、メダカの金魚すくい(救いようがない)。



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by yamagoya333 | 2014-01-21 22:02 | 山小屋日誌