2010年 04月 07日
ここにいるよ
たくさんの兄弟たちと、にぎやかに暮らしていた。
ある日、強い風が、ひょいと私を持ち上げた。
くるくると、空高く、舞い上がった。
一人ぼっちに、なってしまった。
どこに行くのだろう、右に揺れながら、きりきりともまれながら、海の上までやってきた。
柔らかな風に乗り換えた。
ゆるり、ゆるりと、舞い降りたところが、ここだった。
鉄道の駅の、外にある広い通路だった。
毎日、いろんな人の足許を見て暮らしている。
このごろは、通りかかる人のことが、少し類推できるようになってきた。
今夜は、彼氏と待ち合わせの約束があるのだろうか。
足取りが、軽い。
重い仕事抱えているのだろうか。
靴音が、軋んでいる。
私は、ここにいる。
いることに、決めた。
決して、自らの意思ではない。
が、ここがよい。
そう思って、周りを見ると、なかなかいい環境だ。
お日様も、私に優しい。
雨も、十分ではないにしても、生きてゆける。
見ておきし都忘れにあともどり 田中 秋琴女
by yamagoya333
| 2010-04-07 21:51
| 山小屋日誌