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身勝手な (3)

        朝顔に釣瓶つるべ取られてもらひ水   加賀 千代


 江戸時代に活躍した 加賀の千代女の有名な俳句です。

 朝、井戸端に行ってみると、(水を汲み上げる)釣瓶のひもに、朝顔のつるが巻きついている。
 その蔓をむしり取って、水を汲むのもかわいそうだから、隣の家にもらい水をしに行ったことだ。

 千代女の優しい心遣いが、しみじみと感じられる一句です。


 明治時代に俳句や短歌の革新運動に力を尽くした正岡子規がいます。

 子規は、千代女の朝顔の句を徹底的にこき下ろしています。

 子規はこの句を、「人口じんこう膾炙かいしゃする句なれど俗気多くして俳句といふべからず」と厳しく言い切っています

  ※ 「人口に膾炙する」 … 人々に広く知れわたって賞賛されること

        「膾」は、生の肉を細かく切ったもの。「炙」は、あぶった肉。どちらも口当たりがよく、だれにでも賞賛される。

 子規は、、「釣瓶取られて」と朝顔を擬人化し、朝顔へのやさしさを詠むことで、千代女自身の心持ちを反映させているところを「趣向俗極まりて蛇足なり」と酷評しています。

 子規は、自己のやさしさ思わせぶりを俳句の中にこれ見よがしに表現することを嫌っているようです。


 
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 前置きがが長くなりました。

 上の写真は、山小屋のシンボルツリーのクヌギの木です。
 2年前に、切り倒されました。
 現在、ひこばえ(脇芽)が元気よく生い茂っています。




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 いつの間にか、水道の蛇口を覆い尽くしてしまいました。

 山小屋亭主は、千代女のように「もらい水」はしませんでした。

 ためらうことなく、伸びた枝をばっさ・ばっさと切り取ってしまいました。
 まったく身勝手というほかはありません。

 しかしながら、千代女の表わそうとした「優しさ」と、山小屋亭主の「身勝手」とのはざまにあって、私たち人間はあえいでいるのかもしれません。


       一点のいつわりもなく青田あり     山口 誓子

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by yamagoya333 | 2011-08-09 07:06 | 山小屋日誌